第10章 使う側のしくみ — 繋ぐ・一覧をもらう・AIに渡す
📖 MCPサーバーを作って学ぶ AIに道具を持たせる入門 — はじめに・目次 ← 目次に戻る ここから第2部です。 第9章までで作ったのは「道具を差し出す側(サーバー)」でした。この章からは、これまで Claude Desktop が代わりにやってくれていた使う側(クライアント)を、自分で書きます。
📱 Claude ではこう見える 🟢
第2章から第9章まで、あなたは memo サーバーを作り、Claude Desktop の設定ファイルにパスを書いて、再起動して、動かしてきました。
そのあいだ、Claude Desktop の中では、あなたが一度も書いていない仕事が動いていました。
- あなたのサーバーのプログラムを起動する
- 標準入出力で繋ぐ
- 「どんな道具があるの?」と一覧を聞く
- AIが「
search_notesを使いたい」と言ったら代わりに呼んで、結果を返す
この4つです。無料でやってもらっていた、と言ってもいい。
この章では、この4つを自分の手で書きます。 書き上がると、Claude Desktop なしで、ターミナルから自分のメモサーバーを叩けるようになります。
🤔 なぜ自分でクライアントを書くのか 🟢
第1章の3人の図を思い出してください
┌─────────────────────────────────────────────┐
│ ホスト(=あなたが作るアプリ) ←★第2部の主役 │
│ │
│ ┌──────────────────┐ │
│ │ クライアント │ ←─ サーバー1つにつき1人 │
│ └────────┬─────────┘ │
└────────────┼────────────────────────────────┘
│ ← ここでMCPの会話が行われる
↓
┌────────────────────┐
│ サーバー │ =第9章までに作ったもの
│ (memo) │
└────────────────────┘
第1章で「クライアントはホストの中にいる通訳係」と説明しました。第1部では、そのホストが Claude Desktop でした。
第2部では、ホストがあなたのアプリになります。そして通訳係(クライアント)も、あなたが用意します。
やらないとどうなる?
やらなくても、Claude Desktop では動きます。困りません。
でも、背骨①「一度作れば、どのAIからでも使える」を確かめられないまま終わります。
規格のありがたみは、「同じサーバーが、別のホストからも動いた」という体験でしか分かりません。この章と第11章は、そのための章です。
💡 ついでに言うと、世の中の “MCP対応アプリ” が中で何をしているかが分かります。Cursor も Claude Code も、ここでやることを(もっと丁寧に)やっているだけです。
🛠 こう作る 🟢
① まず、サーバーをビルドしておく
クライアントが起動するのは build/index.js(コンパイル後のファイル)です。src/index.ts ではありません。
cd /絶対パス/memo
npm run build
これを忘れると、この章はまるごと動きません。先にやってください。
② クライアント用のプロジェクトを作る
サーバーとは別のフォルダを作ります。混ぜないでください。
mkdir memo-client
cd memo-client
npm init -y
npm install @modelcontextprotocol/sdk
npm install -D @types/node typescript
mkdir src
package.json に、サーバーのときと同じ要領で2行を足します。
{
"type": "module",
"scripts": { "build": "tsc" }
}
tsconfig.json はサーバーと同じものでOKです(第5章のものをコピーしてください)。
{
"compilerOptions": {
"target": "ES2022",
"module": "Node16",
"moduleResolution": "Node16",
"outDir": "./build",
"rootDir": "./src",
"strict": true,
"esModuleInterop": true,
"skipLibCheck": true,
"forceConsistentCasingInFileNames": true
},
"include": ["src/**/*"],
"exclude": ["node_modules"]
}
③ 読み込むもの
src/index.ts を作ります。まず、上から2行。
import { Client } from "@modelcontextprotocol/sdk/client/index.js";
import { StdioClientTransport } from "@modelcontextprotocol/sdk/client/stdio.js";
サーバーのときは server/mcp.js と server/stdio.js でした。今回は client/ の下です。 同じSDKの、反対側の部品です。
Client… MCPの会話をする本体。サーバーのMcpServerに対応する相手役StdioClientTransport… 標準入出力で話すための「線」。サーバーのプログラムを起動するのも、こいつの仕事
⚠️
.js拡張子を落とさないでください。第5章と同じ理由(Node16 のモジュール解決)です。
④ クライアントを1つ作る
const mcp = new Client({ name: "my-client", version: "1.0.0" });
name と version は自己紹介です。サーバー側が「どのアプリから繋がれているか」を知るために使います。好きな名前でかまいません。
⑤ サーバーを起動して、繋ぐ
ここが「①サーバーを起動する」と「②繋ぐ」にあたります。
const transport = new StdioClientTransport({
command: "node",
args: ["/絶対パス/memo/build/index.js"],
});
await mcp.connect(transport);
たった4行ですが、中ではプログラムが1つ起動しています。
command: "node"… 「node コマンドで動かして」args: [...]… 「このファイルを渡して」
つまりこれは、あなたがターミナルで node /絶対パス/memo/build/index.js と打つのと同じことを、プログラムからやっています。Claude Desktop の設定ファイルに書いていた command と args が、そのままコードになったと思ってください。
"memo": {
"command": "node",
"args": ["/ABSOLUTE/PATH/TO/memo/build/index.js"]
}
↑これ(第2章の設定ファイル)と、↑↑これ(さっきのコード)は、同じものです。設定ファイルとは、要するに「クライアントに渡すパラメータを書いた紙」だったわけです。
await mcp.connect(transport) で、起動 → 挨拶(初期化のやりとり)まで済みます。
⑥ 道具の一覧をもらう
「③ツール一覧をもらう」です。
const toolsResult = await mcp.listTools();
toolsResult.tools が配列で返ってきます。1つ1つに、こういう中身が入っています。
| 中身 | 何が入っているか |
|---|---|
tool.name |
"search_notes" |
tool.description |
"ユーザーのローカルのメモ(.mdファイル)を全文検索する。ユーザーが自分の過去のメモ・議事録・日記・書きかけの文章について尋ねたときに使う。ヒットしたファイル名と、その前後の抜粋を返す。" |
tool.inputSchema |
引数の形(query は文字列、など) |
見覚えがありますよね。 第5章であなたが registerTool に書いた、あの3つです。あれが線の向こうから、そのまま返ってきています。
画面に出してみましょう。
console.log("=== 使える道具 ===");
for (const tool of toolsResult.tools) {
console.log("-", tool.name, ":", tool.description);
}
💡 ここで
console.logを使っていることに注目してください。 サーバー側では絶対禁止だったconsole.logが、クライアント側では普通に使えます。理由は後の「ハマりどころ」で説明します。
⑦ 道具を呼んでみる
「④callTool して結果を返す」の、呼ぶところです。この章ではAIを繋がないので、自分で決め打ちで呼びます。
const result = await mcp.callTool({
name: "search_notes",
arguments: { query: "会議" },
});
console.log("=== search_notes の結果 ===");
console.log(result.content);
name… 呼びたい道具の名前(listTools()で返ってきたもの)arguments… 引数。inputSchemaが要求している形で渡します
返ってくる result.content は、第5章でサーバーが返していた { content: [{ type: "text", text: "…" }] } の content です。サーバーで書いた戻り値が、そのまま届いています。
⑧ 全体(コピペで動く最小クライアント)
import { Client } from "@modelcontextprotocol/sdk/client/index.js";
import { StdioClientTransport } from "@modelcontextprotocol/sdk/client/stdio.js";
const mcp = new Client({ name: "my-client", version: "1.0.0" });
async function main() {
const transport = new StdioClientTransport({
command: "node",
args: ["/絶対パス/memo/build/index.js"],
});
await mcp.connect(transport);
const toolsResult = await mcp.listTools();
console.log("=== 使える道具 ===");
for (const tool of toolsResult.tools) {
console.log("-", tool.name, ":", tool.description);
}
const result = await mcp.callTool({
name: "search_notes",
arguments: { query: "会議" },
});
console.log("=== search_notes の結果 ===");
console.log(result.content);
await mcp.close();
}
main().catch((error) => {
console.error("Fatal error in main():", error);
process.exit(1);
});
最後の await mcp.close() は後片付けです。これを呼ぶと、裏で起動していたサーバーのプログラムも終わります。忘れるとターミナルが返ってこないことがあります。
動かします。
npm run build
node build/index.js
こう出れば成功です。
=== 使える道具 ===
- search_notes : ユーザーのローカルのメモ(.mdファイル)を全文検索する。ユーザーが自分の過去のメモ・議事録・日記・書きかけの文章について尋ねたときに使う。ヒットしたファイル名と、その前後の抜粋を返す。
- read_note : メモを1つ選んで、その全文を返す。search_notes で見つけたファイル名を渡す
- write_note : 新しいメモを保存する。すでに同じ名前のメモがある場合は上書きされる
=== search_notes の結果 ===
[ { type: 'text', text: '…' } ]
Claude Desktop を1回も開かずに、自分のMCPサーバーを叩けました。 これが第2部の第一歩です。
🔑 この章の山場:LLMに渡す形に「変換」する 🟢
さて、ここからが本題です。
listTools() でもらったツール定義を、そのままLLMのAPIに渡せると思いますか?
渡せません。
MCPの形と、LLMのAPIの形は別物
比べてみてください。
MCPが返してくる形(listTools() の中身)
name : "search_notes"
description : "ユーザーのローカルのメモ(.mdファイル)を全文検索する…"
inputSchema : { … } ← キー名は inputSchema
LLMのAPI(Anthropic)が要求する形
name : "search_notes"
description : "ユーザーのローカルのメモ(.mdファイル)を全文検索する…"
input_schema : { … } ← キー名は input_schema
……inputSchema が input_schema になっているだけです。拍子抜けするくらい、ほとんど同じ。
でも「ほとんど同じ」は「同じ」ではありません。だから、こう変換します。
const tools = toolsResult.tools.map((tool) => {
return {
name: tool.name,
description: tool.description,
input_schema: tool.inputSchema,
};
});
この tools を、LLMのAPIに tools: として渡します(実際に渡すのは第11章です)。
なぜこれが山場なのか 🟢
この3行のためだけに節を立てているのは、ここに MCP の正体が出ているからです。
MCPは「AIと道具の共通語」であって、「LLM各社のAPIの形」ではありません。
MCPは、道具を差し出す側(サーバー)と道具を集める側(クライアント)のあいだの規格です。集めた道具をどのLLMに、どういうJSONで渡すかは、MCPの管轄外です。
- Anthropic のAPIは
input_schemaというキーを使います - OpenAI のAPIは別のキー名・別の入れ子で要求します(第11章で実際に書きます)
- 将来また別のAPIが出てきても、変わるのはこの変換の3行だけです
だからクライアントの仕事は、こう整理できます。
MCPサーバー(何個でも)→ [ 共通語で受け取る ] → [ 変換 ] → 使いたいLLMのAPI
↑
ここだけがLLM各社に依存する
第3弾との対比:手書きしなくてよくなった 🟢
第3弾(自作CLIエージェント)の第3章を思い出してください。あそこでは、AIに渡すツール定義を自分で1個ずつ手書きしていました。名前を書き、説明を書き、引数のスキーマを書いて、配列に並べて。
道具を1つ足すたびに、エージェント側のコードを書き換える必要がありました。
いまはどうでしょう。
const toolsResult = await mcp.listTools();
この1行で、道具の一覧が勝手に入ってきます。
つまり——サーバーに write_note を足してビルドし直すだけで、クライアントは1文字も直さずに新しい道具を使えるようになります。 クライアントは、どんな道具が来るかを事前に知らなくていい。
これが「規格で作る」ことの、いちばん具体的な見返りです。第1章で書いた N×M 問題の話が、ここでコードになりました。
📋 クライアントがやっていること4段階 🟢
この章のまとめです。クライアントの仕事は、たった4つです。
| # | 仕事 | コード |
|---|---|---|
| ① | サーバーを起動する | new StdioClientTransport({ command, args }) |
| ② | 繋ぐ | await mcp.connect(transport) |
| ③ | ツール一覧をもらう | await mcp.listTools() → LLMの形に変換 |
| ④ | AIが呼びたいと言ったら呼んで、結果を返す | await mcp.callTool({ name, arguments }) |
この章では、①②③と、④の「呼ぶ」ところだけを、AI抜きでやりました。
残っているのは④の「AIが呼びたいと言ったら」の部分だけです。そこを埋めるのが第11章です。
⚠️ ハマりどころ 🟢
① パスは絶対パスで
args: ["../memo/build/index.js"] // ❌ たいてい動きません
args: ["/Users/you/memo/build/index.js"] // ✅
相対パスは「どこから見た相対か」が状況によって変わります。第2章の設定ファイルで絶対パスを要求されたのとまったく同じ理由です。
パスが分からなくなったら、サーバーのフォルダで確認できます。
cd /絶対パス/memo
pwd
出てきた文字列に /build/index.js を足したものが答えです。
② サーバーをビルドし忘れる(いちばん多い)
エラーはこう出ます。
Error: Cannot find module '/絶対パス/memo/build/index.js'
build/index.js が存在しないのです。原因は9割これ。
cd /絶対パス/memo
npm run build
サーバーのコードを直したのに、クライアントの挙動が変わらないときも、これを疑ってください。クライアントが動かしているのは古い build/index.js のままです。「直したのに変わらない=ビルドし忘れ」は、この教材でずっと付いて回ります。
③ クライアントでは console.log を使ってよい 🟢
第3章であれだけ「console.log は絶対に書くな」と言ったのに、この章では普通に使っています。矛盾ではありません。
理由はシンプルです。
console.logが禁止だったのは「stdout(標準出力)が、MCPの会話チャンネルになっている」プログラムだけです。
- サーバーは、自分の stdout にMCPの返事を書いている → そこに文字を混ぜたら会話が壊れる → 禁止
- クライアントの stdout は、ただのターミナルです。誰も会話に使っていない → 自由
クライアントがサーバーと話しているのは、起動した子プロセスの stdin / stdout であって、クライアント自身の画面ではありません。口が別なのです。
覚え方はこれで十分です。
stdio サーバー = 画面が会話チャンネル(黙る)/クライアント = 画面はただの画面(喋ってよい)
第8章の HTTP サーバーで console.log が問題なかったのも、同じ理屈でした(会話チャンネルが HTTP のほうに移っているから)。
④ 「繋がったのにツールが0個」
listTools() が空の配列を返すときは、サーバー側を疑います。
- ターミナルで直接
node /絶対パス/memo/build/index.jsを実行してみる(第4章の切り分け手順①) npx @modelcontextprotocol/inspector node /絶対パス/memo/build/index.jsで見てみる(同②)
Inspector の Tools タブに出ないなら、原因はクライアントではなくサーバーです。第4章に戻ってください。
⑤ メモが見つからない(NOTES_DIR)
search_notes が「1件も見つかりません」と返すときは、サーバーが見ているフォルダを確認します。
第5章でサーバーには既定のメモ置き場を持たせてあるので、クライアントから何も渡さなくても動くはずです。それでも空なら、そのフォルダに .md ファイルがあるか確かめてください(対象は .md だけです)。
🔧 別のフォルダを見せたい場合、クライアントからサーバーに環境変数を渡す方法があります。ただし扱いがSDKの版で変わりやすいところなので、必要になったら公式ドキュメント(modelcontextprotocol.io)で現行の書き方を確認してください。手っ取り早いのは、サーバー側の既定値を書き換えてビルドし直すことです。
⑥ プログラムが終わらない
await mcp.close() を忘れると、起動したサーバーが生き残ってターミナルが返ってこないことがあります。最後に必ず呼んでください。止まらなくなったら Ctrl + C で大丈夫です。
🤖 AIに頼むなら 🟢
AIに「MCPクライアントを書いて」と頼むときのコツです。
言うべきこと
「
@modelcontextprotocol/sdkのClientとStdioClientTransportを使って、TypeScript で最小のMCPクライアントを書いて。LLMはまだ繋がなくていい。listTools()の結果を表示して、search_notesを1回呼んで終わるだけ」
「LLMはまだ繋がなくていい」を必ず付けてください。 これを言わないと、AIは親切心で OpenAI や Anthropic のAPI呼び出し、対話ループ、エラーハンドリングまで全部盛りで書いてきます。動かないときに、どこが悪いか分からなくなります。
気をつけること
- MCPは動きが速い分野です。AIは古い書き方(廃止された繋ぎ方や、昔のクラス名)を自信満々に出してきます。「公式ドキュメント(modelcontextprotocol.io)の最新の書き方で」と添えてください
- 絶対パスは自分で入れる。 AIはパスを想像で埋めます。
pwdで調べた本物に置き換えてください - サーバー側とクライアント側の import を混ぜていないかを目視で確認。
server/stdio.jsとclient/stdio.jsは名前が似ていて、AIもたまに取り違えます
📗 ことばメモ
| ことば | よみ | 意味 |
|---|---|---|
| クライアント | — | ホストの中にいる、サーバーとの通訳係。この章からあなたが作るもの |
Client |
クライアント | SDKのクラス。MCPの会話をする本体。サーバー側の McpServer の相手役 |
StdioClientTransport |
— | 標準入出力でサーバーと話すための「線」。サーバーのプログラムを起動するのもこれ |
listTools() |
リストツールズ | サーバーに「どんな道具がある?」と聞く。中身は tools/list |
callTool() |
コールツール | 道具を実際に呼ぶ。中身は tools/call |
inputSchema |
インプットスキーマ | 引数の形。MCP側のキー名(キャメルケース) |
input_schema |
インプットスキーマ | 同じものの、Anthropic API側のキー名(スネークケース)。ここを変換する |
| 変換(マッピング) | — | MCPの形を、使いたいLLMのAPIの形に詰め替えること。LLM各社に依存するのはここだけ |
➡️ 次へ
クライアントの骨格はできました。サーバーを起動し、繋ぎ、道具の一覧をもらい、呼べる。そして一覧をLLMが読める形に変換するところまで来ました。
でも、まだAIがいません。search_notes を「会議」で呼ぶと決めているのは、あなたが書いた決め打ちのコードです。
第11章 自作ChatGPTクローンに繋ぐ では、ここで作った変換済みの tools を実際にLLMへ渡し、AIが「この道具を使いたい」と言ってきたら callTool() して結果を返す——④の残り半分を埋めます。繋ぎ先は第2弾で作った ChatGPT クローンです。
そのとき、あなたが第5章で書いたメモサーバーが、Claude Desktop でも、自分のアプリでも、まったく同じコードのまま動くところを見ることになります。背骨①の答え合わせです。
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